秋の行楽シーズンを迎えた。2回続く2024年9月の3連休には、全国の観光地が盛況になることが見込まれている。2023年5月に新型コロナウイルスが5類へ移行して以降、国内の観光産業では、2024年の各指標がコロナ禍前の2019年を上回る推移を見せている。能登半島地震の発生、7月の大雨など自然災害が続いたほか、8月8日に発生した日向灘地震に端を発した1週間に及ぶ「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の影響などの不安要素も抱えているものの、インバウンド需要が下支えしている。
観光産業(※1)の景況感はどのように変化しているのか、取り巻く環境や景気DIの動きを分析した。
帝国データバンクが毎月実施しているTDB景気動向調査で算出した観光DI (※2)の推移を見ると、政府が「2023年5月に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けを5類に移行する」と発表した同年1月以降、上昇基調に転じ、その後、同年3月から2024年8月まで、18カ月連続で全産業の景気DIを上回った。
実際に5類に移行した同年5月の観光DIは49.9を記録し、その後は多少の揺れ幅はあったものの、インバウンド需要を背景に48台で推移した。 2024年1月の能登半島地震による一時的な自粛の動きなどから45.8にダウンしたものの、その後石川県を対象とした観光促進策や、底固いインバウンド需要に支えられ、2024年8月の観光DIは47.2(前月比1.6ポイント増)と2カ月連続で改善した。
足元の動きに対して、企業からは「インバウンド需要は好調」(飲食・北海道)などの前向きな声がある一方、「南海トラフ地震臨時情報で最繁忙期の集客に大きなダメージがあった」(宿泊・和歌山県)、「インバウンドの効果は地方では少なく限定的」(宿泊・福島県)、「夜間の人出が少なく、コロナ禍以前の水準に戻らない」(飲食・新潟県)など地域によって違った声が聞かれる。
日本政府観光局(JNTO)が発表した「訪日外国人客数」によると、2024年の訪日外国人客は1~7月までの合計が2107万人に達し、前年同期の1303万人を上回った。通年で前年を超えるのは確実と見られ、そのペースはコロナ禍前の2019年をも上回っており、国内の観光産業を牽引しているといわれる。
他方、「主要旅行業者の旅行総取扱額」(観光庁)の内訳を見ると、2023年度の「国内旅行」は2兆3559億円とコロナ禍前の2019年度に迫ったものの、「海外旅行」は1兆699億円と、円安や物価高の影響などにより回復が遅く、コロナ禍前の2019年度に大きく及ばなかった。
2024年度に入ってからも、「海外旅行」の回復は鈍く、物価高による節約志向や天候などの環境要因、人手不足などの影響で「旅行総取扱額」の2024年4~6月の累計総額は、前年同期を7.1%上回るにとどまり、通期でもコロナ禍前の2019年度を上回るには厳しいペースにある。
インバウンド需要を背景に観光DIは全産業の景気DIを18カ月連続で上回っているが、多少の円高が進んだことでマイナスの影響が懸念される。 人手不足やオーバーツーリズムなどの経営課題に対処しながら、新たな旅行需要を掘り起こす必要がありそうだ。