2023年5月に新型コロナ感染症が5類に移行して1年あまりが経過した。人流回復やインバウンド需要の増加を背景に、経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」(2024年5月時点)では、遊園地・テーマパークの2023年度の売上高はコロナ禍前を上回り、それに伴い従業者数も増加している。一方で、フィットネスクラブの2023年度の売上高はコロナ禍前の水準には戻っておらず、会員数と従業者数は減少している。
夏の本格的なレジャーシーズンを前に、娯楽サービス業界(映画館、フィットネスクラブ、ゴルフ場、テーマパーク、パチンコホールなど)の景況感はどうなっているのか。取り巻く環境や景気DIの動きを分析した。
帝国データバンクが毎月実施しているTDB景気動向調査で算出した娯楽サービスDI(※1) の推移をみると、2022年後半から感染予防策の定着や入場制限の緩和をはじめとする営業環境の好転により、全産業の景気DIを上回る水準となった。
その後、マスク着用ルール緩和により娯楽需要の回復が期待されたことで、2023年3月のDIは50.9を記録した。しかし、2023年下半期はおおむね40台後半で推移し、直近の2024年4月からは3カ月連続で前月を下回って推移している。
足元の動きに対して、企業からは「物価高で経費がかさんでいる。円安により海外からの値上げ圧力があるものの、国内受注単価はなかなか上がらない」(映画・ビデオ制作)、「光熱費の増加、物価上昇が負担となっている」(フィットネスクラブ)など物価高騰や経費負担増を懸念する声が多く聞かれる。また、「3つの密(密閉・密集・密接)」を回避できるレジャーとして人気が回復したゴルフ業界からは「コロナが5類移行となり、来場者が減少している」といった声も聞かれた。
総務省の「家計調査」によると、2人以上世帯のレジャー関連支出(映画・演劇等入場料、文化施設入場料、遊園地入場・乗物代)の増減率は、コロナ前の2019年同月比で改善傾向が続いていた。
しかし、2024年に入りペースが鈍化している。実質賃金が26カ月連続で減少している状況下、消費者が娯楽費への支出を減らしている可能性がある。ただし、「映画・演劇等入場料」は、2月の『劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦』、4月の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』など興行収入100億円超え作品の影響で増加した。
7月下旬から夏休みシーズンに入り、人の移動が活発となることで娯楽サービスの景況感は改善が期待される。一方で、今年の夏の気温は観測史上最も暑くなった昨年に匹敵すると予想され、酷暑による外出の手控えやエアコンなどの電気代負担の増加が、娯楽サービスへの支出金額を減らす要因となる可能性もある。
2022年後半から全産業の景気DIを上回る水準で推移してきた娯楽サービスDIは、足元では前月比3カ月連続の悪化となった。テーマパークのようにコロナ禍前より改善した業界もあれば、パチンコホールのように少子高齢化やレジャーの多様化、法規制、生活スタイルの変化に伴い、需要が十分に戻らない業界も存在する。
今年の夏は、酷暑により屋内の娯楽サービスが人気を集めることが予想されるものの、娯楽サービスへの支出が大幅に増える要素は物価高の影響を受けて限定的といえそうだ。