2023年は、5月の新型コロナウイルス感染症の「5類」分類への移行により、コロナ禍で停滞していた社会経済活動や人流が回復し、IPOを取り巻く環境も回復傾向となった。同年3月、東東証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍を超えていない企業に対して株価水準を引き上げるための義対策を開示・実行するように要請を行い、23年10月には、「仮条件の範囲外での公開価格の設定」や「上場日程を決めるルールの変更」など多くの変更がなされた。そのため、国内外から日本企業に対して関心が集まり、2024年2月には、日経平均株価の終値がバブル経済ピークの1989年末につけた最高値を更新した。
その一方で、世界的にはIPOは停滞しており、ロシアによるウクライナ侵攻やハマス・イスラエル紛争の長期化といった地政学上の不確実性の高まりで投資マネーの勢いの弱さが懸念されている。
そこで、2023年のIPOを振り返るとともに、特徴や動向についてまとめた。
1.2023年のIPO社数
2.2023年の株式市場
3.2023年IPO の特徴(市場、規模、地域、業界)
2023年のIPO社数は、前年比5社増の96社(TOKYO PRO Marketへの上場を除く)となった。リーマンショック後となる2009年からの15年間では、新型コロナウイルスへの対応として世界的な金融緩和が行われた2021年(125社)に次ぐ水準となった(図表1)。
一方で国内市場は、マザーズ指数が2020年の高値から4割ほど下落した水準で推移した。2023年の上場承認取り下げは8社発生(うち1社は2023年内に上場)したが、水面下ではさらに多くのIPO 計画が中止・延期になったと推測される。
96社という2023年のIPO社数は、90社前後で推移していた2015~2020年までの水準を維持しており、欧米に比べると堅調な推移となった。
2023年3月に、東京証券取引所は通知文「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」を発表した。 取引所が企業経営者に株価を意識した経営を求めることを記した異例の要請で注目を集めた。上場企業の意識改革を目指す年となった2023年のIPO の動向を以下に見ていく。