TDB REPORT ONLINE

「健康経営」は、いま注目されている「人的資本経営」や「働き方改革」につながる中小企業の課題解決のひとつの切り口として、企業の関心が高まっている。経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」においても、認定取得企業数が急増している。

帝国データバンクが健康経営優良法人の認定取得企業(中小規模法人部門)を対象に行ったアンケート(2023年10月実施)では、約38%の中小企業が認定取得にあたって「保険会社(生損保)の支援サービスを活用」したという結果が出た。

保険会社において、実際にどのような支援活動が行われているのか。生命保険業界の中で、中小企業マーケットに強みをもつ大同生命保険株式会社で、健康経営の普及推進に携わる各氏に活動内容を聞いた。

大同生命_写真(3名)トリミング済.jpg

  岡村麻矢氏             大橋慶也氏        渡邊寛子氏


日本の雇用全体の7割を占める中小企業、「健康経営」の早期普及が必要

―貴社が「健康経営」普及に向けて支援を開始された時期や経緯をお聞かせください

2016年に経済産業省による健康経営優良法人の認定制度が創設されるなどの動きがあり、当社はそのタイミングで「DAIDO KENCO アクション」と称して健康経営の普及・推進の取組みを開始しています。

日本では中小企業の従業員が雇用全体の7割を占めています。採用環境が厳しい中で、従業員に万が一のことがあったときのリスクは大企業に比べて当然ながら大きく、経営に与える影響も大きくなります。

したがって、中小零細企業にこそ、健康経営の早期の普及が求められると考えています

「健康経営」推進のため独自のプラットフォーム「KSP」を推進

―これまでの展開や現在の具体的な支援内容、支援体制をお聞かせください

2017年から健康経営を具体的に実践するためのノウハウを集約した「KENCO SUPPORT PROGRAM」(以下、KSP)というウェブツールを提供しています。

現在、KSP登録企業社数は約3万8,000社、利用者数では約12万人の方にご利用いただいています(2023年11月時点)。

KSP全体像.JPG

KSPでは、経営者による「健康経営宣言」をはじめとして、「健康診断の受診促進」や、登録した健康診断結果に基づく「発症リスク分析」、継続的な健康増進の取組みを促す「健康促進ソリューション」、健康活動に応じた「インセンティブ」の提供など、健康経営の実践に必要なPDCAサイクルの実践を一貫してサポートしています。

「健康促進ソリューション」ではウェアラブル端末やスマートフォンなどで計測したデータをKSPアプリやKSPサイトに連携することで、日々の歩数や体重などのバイタルデータを一元管理することも可能です。また食事管理アプリ「カロママプラス」では、日々の食事を撮影するだけで、AI管理栄養士による食事アドバイスを受けることができ、手軽に食事改善に取り組むこともできます。

このほかにも、KSP利用者が楽しく健康維持・増進に取り組めるよう、健康イベントとして「ウォーキングキャンペーン」を年3 回開催しています。キャンペーン参加者には、歩数に応じてポイントを付与し、健康活動に取り組んでいただくためのインセンティブを提供することで、継続的に運動習慣を身に着けていただくことを目指しています。KSPは、こうした機能やイベントをパッケージ化したプラットフォームです。

2023年2月からは「健康経営定期便活動」と称して、健康診断結果の履歴管理する機能を活用し、登録企業の会社全体の健康状態を可視化したウェブレポート「健康経営レポート」の提供を開始しています。

リモート環境が広がるなかで利便性を高めるための取組みとして、オンライン上で医師の診察や、従業員の就業上の配慮について医師に相談できる「産業保健支援サービス」の機能も拡充しています。

例えば健康経営レポートを見て、健康改善が必要と思われる従業員に「病院で診てもらったらどうか」という話を経営者がしても、本人が多忙なためすぐには診察に行けないというケースもあるでしょう。そうした際に利用できる「オンライン診療」(保険診療実費)のほか、健康経営優良法人の認定取得のサポートや、健康に関する悩みを産業保健師に相談できる「健康経営オンライン相談」を提供しています。

―KSPの利用対象はどのような企業を想定されていますか。また、こうしたプログラムやサービスは有料なのでしょうか

KSPはどの企業(個人事業主含む)でも無料でご利用いただけるサービスです。弊社の保険加入有無は問いません。

産学連携で健康経営実践モデルを構築、2022年に独自の表彰制度をスタート

―健康経営の支援推進にあたっては、他支援機関や団体との連携はされていますか

2019年から、産学連携として産業医科大学・産業保健経営学研究室の森晃爾先生、ヘルスケアコンサルティング会社の(株)メディヴァ(東京都世田谷区)と、中小企業の健康経営の実践モデル構築に向けた取組みを行っています。

その成果のひとつが、2022年に創設した弊社独自の健康経営表彰制度「DAIDO KENCO AWARD」です。初年度には449社の企業に応募があり、その中から健康経営に対して特に顕著な取組みをしている75社を表彰しました。「DAIDO KENCO AWARD特設サイトでは、表彰企業各社の取組みをご紹介しています。

このほか、弊社の一部支社では地域の協会けんぽと連携し、中小企業の健康づくりを支援するための活動を実施しています。また、本社のある大阪では、大阪府との包括連携協定のもと、大阪府が健康経営に取組む企業を表彰する「大阪府健康づくりアワード」に協賛するなど、自治体と連携した健康経営の普及・推進活動に取り組んでいます。

フェイスtoフェイスのつながりが「健康経営」の広がりへ寄与

―健康経営の裾野を広げていくための貴社のキーパーソンは

中小企業が抱えるさまざまな課題の解決に向けて、支援サービスを提供する弊社の活動を支えているのは、各社を直接訪問する営業担当者です。

弊社では「大同生命サーベイ」という月次調査を、営業担当者が中小企業各社にヒアリングする形で実施しています。

健康経営をテーマとする調査も定期的に実施しており、同調査を通じて浮かび上がった中小企業の健康経営における課題解決を支援するため、KSPをご案内しています。

コロナ禍を経てリモートでのやりとりもだいぶ浸透してきていますが、やはりフェイスtoフェイスで経営者と直接接点がある現場においてこそ、健康経営の推進効果も大きいと考えています。

「健康経営」に取り組む動機として、経営者は効果やメリットに関心

―健康経営に積極的に取り組む企業には、どのような特徴がみられますか

経営者に健康経営についてお話をすると、まず関心を持たれるポイントは、人材採用面でのアピール効果です。他には、補助金や建設業の入札時における加点制度なども関心を集めます。経済産業省が主催する「健康経営優良法人認定」の取得については、認定されることによる具体的なメリットが明確だと、それが動機付け(インセンティブ)となって取り組まれる企業が多い印象です。

健康経営優良法人の認定取得に向けてKSPを活用、PDCAサイクルを実践

―健康経営優良法人認定取得を目指す企業には、KSPではどのようなサポートがありますか

健康経営優良法人認定取得についてご相談をいただくことは多いです。相談いただいた場合、現在の認定制度の評価項目に対してKSPのメニューでどの評価項目をカバーできるか、という点を解説します。

健康経営においては健康経営優良法人の認定取得はひとつの目標であって、取得したらそれで終わりではありません。健康経営のPDCAサイクルを実践し、健康課題に対する改善も必要です。認定取得支援では、経営者の「健康経営宣言」(従業員へのメッセージ)から始まる各種の取組みを通じて、一連のPDCAサイクルを実践し、企業が抱える健康課題の解決につながるようにサポートしています。

ウォーキングイベントへの参加により「職場の活性化」を促進

―健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定基準では、例えば「職場の活性化」があります。具体的にはどういったアドバイスをされるのでしょうか

「職場の活性化」は、評価項目では「コミュニケーションの促進に向けた取組み」に該当します。

以下、大同生命保険(株) インタビュー[後編]~ ~経営者の「想い」が健康経営の原動力に。コミュ二ケーション活性化は生産性向上へ寄与~(TRO会員限定記事)へ続きます。

関連記事