6割超が「増収」基調、訪日客の増加恩恵
日本政府観光局(JNTO)によれば、2023年9月の訪日客数は218万4300人となり、コロナ前の19年同月比で96.1%の水準に達するなど、コロナ禍前の水準まで概ね回復した。旅館・ホテルなど客室稼働率も6割に迫るなど、コロナ前の水準を上回る月もあり、コロナ禍で抑制された宿泊・訪日需要の反動増もみられる。
他方、宿泊現場ではフロントや調理スタッフなどの確保が間に合っていないなど、深刻な人手不足状態が顕在化している。帝国データバンクの調査では、旅館・ホテル業界の人手不足割合は正規・非正規人材ともに7割を超えた。
足元では、宿泊予約や客室稼働率に制限を設けて運営するなど、旺盛な需要を十分に享受できないケースもみられる。年末年始やスキーなどハイシーズンを今後迎えるなか、人手確保が23年度の旅館・ホテル市場を左右するとみられる。
[注] 帝国データバンクが保有する企業信用調査報告書ファイル「CCR」から、「旅館・ホテル」業界の企業863社における業況(売上高)について調査・分析を行った。なお、集計対象期間は各調査時点から過去1年間(例:2022年4月:2021年4~22年4月)
旅館・ホテル業界が急回復の局面を迎えている。過去1年間に帝国データバンクが調査した全国の旅館・ホテル業者のうち、直近の業況が判明した863社を集計した結果、63%の企業が「増収」基調であることが分かった。
「全国旅行支援」による国内観光の再始動に加え、水際対策の緩和により訪日外国人観光客の受け入れが再開した1年前の22年10月(45%)の水準を大きく上回り、コロナ禍以降で最高を更新した。
「前期並み(横ばい)」は34%、「減収」割合は3%と、それぞれ「増収」の割合を大きく下回った。
コロナの感染状況に業績が左右され続けてきた旅館・ホテル業界は、コロナ禍当初の2020年4月時点では増収見通しが13%、21年同時点は5%にとどまるなど、各企業で非常に厳しい見通しを強いられてきた。
しかし、22年10月以降は新型コロナの5類移行などで水際対策が緩和・撤廃され、国内観光需要が回復に転じたほか、インバウンド(訪日外国人客)需要も急回復したことで大幅な増収を見込む企業もみられた。
23年4月以降は、8月に3年半ぶりとなる中国人団体旅行の受け入れ解禁でインバウンドが本格的に再開したほか、出張需要の復調も加わり、稼働率・客室単価双方ともに上昇したことも旅館・ホテル各社の増収を後押しした。
都道府県別にみると、「増収」基調となったホテル・旅館の割合が最も高かったのは「宮崎県」で、対象となった企業すべてが増収と回答した。「沖縄県」も9割超で増収となったほか、愛媛県や群馬県、長野県、長崎県など6県では増収が8割を超えた。
この結果、10月時点までの各社業績推移を基にした2023年度通期の旅館・ホテル市場(事業者売上高ベース)は、3.4兆円だった22年度から1.5倍規模となる4.9兆円前後と予想される。4.9兆円規模は、訪日外国人による宿泊需要が旺盛だった19年度並みの水準となる。
ただ、足元では年末年始の旅行需要、24年3月にかけての卒業旅行シーズンなど、前年に比べて国内旅行需要がさらに高まることも見込まれ、過去最高の18年度・5.2兆円を超える可能性もある。
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