~EV普及で「プラスの影響」が大きいのは『北関東』、「マイナスの影響」は『東海』~
EVシフトが加速している。米テスラ、中国BYDなどが世界市場で先行し、新車販売にEVが占める比率は中国で3割、EUで1割を超えた。北米や東南アジアにおいても無視できない存在となりつつある。日本における同比率はいまだ2%に満たないが、自動車メーカーの研究開発、設備投資状況やインフラ整備の動向を見る限り、今後EVに多くの経営資源が投入されていく可能性は高い。
そこで、帝国データバンクでは、EV普及の影響、参入の意向についてアンケート調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2023年7月調査とともに行った。
※本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
・(1)EV普及による業績への影響
・(2)EV事業への参入
・まとめ
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EVの普及による業績への影響を尋ねたところ、「プラスの影響」があると回答した企業は全体の11.1%だった。一方、「マイナスの影響」があるとした企業は13.6%だった。
なお、「影響はない」は41.0%、「分からない」は34.3%となった。
企業からは、「時代の流れについていくが…まだ情報収集の段階」「同業他社の動向をみている」との声が聞かれた。「2020年以降、完成車メーカーの内燃機関向け研究開発投資や設備投資は止まり、ほとんどがEVに振り向けられている」との指摘もある。
しかし、本当にEVが主流になるのか、10年後の自動車産業の勢力図がどうなっているのか、現時点で予測するのは難しいとみている企業が全体の7割以上を占めた。
EVの普及による業績への影響を規模別にみると、「プラスの影響」があると回答した「中小企業」が10.1%にとどまったのに対し、「大企業」は16.3%と6.2ポイントも高かった。一方、「マイナスの影響」があると回答した「中小企業」は13.7%、「大企業」は13.2%と、大きな差はみられなかった。なお、「影響はない」「分からない」は、ともにわずかながら「中小企業」が「大企業」を上回った。
従業員数別でみると、従業員数「5人以下」では「プラスの影響」は7.5%にとどまったが、「301~1,000人」では21.3%、「1,000人超」では28.5%に達した。「5人以下」から「101~300人」までは「マイナスの影響」が「プラスの影響」を上回ったが、「301~1,000人」からは逆転し、従業員数の多い大企業ほど、プラスの影響が大きい傾向がみられた。なお、マイナスの影響が最も大きいのは「101~300人」の15.0%だった。
EVの普及による業績への影響を地域別でみると、「プラスの影響」が最も高いのは『北関東』の13.8%。次いで、『南関東』の12.4%、『北陸』の12.2%、『四国』の12.1%となった。
一方、「マイナスの影響」が最も高いのは『東海』が20.6%と突出していた。内燃機関を動力源とする既存の自動車産業は裾野が広く、関連企業が多数存在するが、その中心地である『東海』地域への影響は大きい。次いで、『中国』(16.5%)、『東北』(15.1%)が続いた。
EV事業への参入については、「3年以上前から該当する事業あり」が3.4%、「3年以内に新規事業として参入済み」が1.3%、「参入予定あり」が5.3%となった。全体の1割が『参入済みもしくは参入予定』であり、何らかのかたちで拡大するEV市場に関わっていく意思を持っていることがわかった。
もっとも、「参入予定なし」は67.4%に達しており、「分からない」も22.6%あり、本格的な参入の判断はまだ先のようである。
EV事業への参入について、規模別にみると、『参入済みもしくは参入予定』が「中小企業」では9.1%であるのに対し、「大企業」では15.0%となり、「中小企業」を5.9ポイント上回った。
「参入予定なし」でみても、「中小企業」が68.3%、「大企業」は62.4%と5.9ポイントの差となった。EV事業への参入について、「大企業」の方が「中小企業」より前向きな姿勢を持っている。企業からは、「いまは業界環境が一変する過渡期」との声があり、充電インフラの設備工事に商機を見出している事例が多く聞かれたほか、車両や電池に関わる様々な部材、センサーなどの開発、製造も多くの企業が手がけ始めている。また、ワイヤレス給電や水素エネルギーなど、先端分野の研究・開発を行っている事例もあった。
EV事業への参入を地域別にみると、『参入済みもしくは参入予定』が最も高いのは『北関東』の14.0%。
トヨタなどに比べて出遅れていたSUBARUが、本拠地とする群馬県でガソリン車との混流生産、更には新工場での専用ラインを計画するなどEVシフトを本格化させたことが背景にあるようだ。ホンダが栃木県のエンジン部品工場閉鎖を決定するなど逆行する動きもあるが、トヨタや日産のEV向けで商機を掴んだ企業もある。
第2位は『東海』の13.0%。EV普及で「マイナスの影響」が最も大きいのが同地域であり、自動車産業の集積地として新陳代謝が進む可能性がある。
EV事業への参入を業界別にみると、『参入済みもしくは参入予定』が最も高いのは『製造』の14.0%。次いで『小売』の13.5%となった。
これを細かな業種でみると、第1位は「自動車・同部品小売」の56.0%。この業種に属する過半の企業が『参入済みもしくは参入予定』となった。第2位は自動車・自動車部品の「輸送用機械・器具製造」が34.3%で続いた。
自動車産業は、製品出荷額ベースで全製造業の2割近くを占める日本の基幹産業だ。産業としての裾野も広く、自動車部品からソフトウェア、半導体、各種センサーなどの電子部品、金融サービスまでを包摂し、全就業人口の約1割、550万人の雇用も支える。
確かな機械的信頼性と高い耐久性を備え、燃費に優れ、かつ安価な日本車は世界中に輸出されて貴重な外貨を稼ぎ、およそ半世紀にわたって「ものづくり大国日本」の象徴的存在となってきた。この20年間、家電、半導体など主要産業が次々に国際競争力を失っていくなかでも、自動車産業は最後の牙城であり続けてきた。
ほんの数年前まで、EVシフトは「今後5~10年の間に起こる大変革」とみられていた。実際は世界規模で想定されていたよりはるかに早く、急速に普及率を上げて、EVに関しては日本の自動車産業の出遅れ感が指摘されるようになっている。
一方で、EVシフトそのものに対する懐疑的な見方もある。「短い航続距離に長い充電時間、寒冷地や山間部での使用、長時間渋滞で生命に関わる問題……現時点でEVを商用車として使用するのはナンセンス」「ボトルネックになっているのは車両価格の高さ、リチウムやレアアースの入手難、補助金の不足、充電インフラの不足。ここが解消されない限り普及は難しい」「EV使用時のCO2排出量だけが減っても、電力供給や電池の製造過程、廃棄までを含めた自動車のライフサイクル全体で減っていなければ意味がない」などの意見が多数、聞かれた。
トヨタは2030年にEV350万台の世界販売目標を定めており、日産は2030年までに電動車27車種(うちEV19車種)を投入、電動車の車種構成を55%に高める。ホンダは2030年に電動車200万台、2040年までにすべての新車販売を電動車とする方針だ。
こうしたEVシフトの波に乗るか傍観するか、経営判断の分かれるところだが、EVが主流となり、一定の市場シェアを占めるに至った場合、待っているのは内燃機関の需要減少とそこへの依存度の高い企業の淘汰だ。
2022年のマレリホールディングスの民事再生は記憶に新しく、遡れば2019年の曙ブレーキ工業の事業再生ADRがここ数年の自動車関連企業の私的整理/法的整理ラッシュの端緒だったわけだが、影響はすでに出ていると言ってよい。最悪の事態を避けるための戦略修正、生き残りを賭けた大旋回は始まっている。
今回の調査で、プラスの影響もマイナスの影響もともにあるが従業員数の多い、経営体力のある「大企業」ほどビジネス・チャンスと捉えて前向きな受け止め方をしていること、地域別では『北関東』が積極的な姿勢を示し、『東海』はマイナスの影響を認識しつつも時代の変化に対応しようとしていることが示された。
EVシフトの行方は見通せないが、世界的な脱炭素の潮流の中で自動車産業も製造からインフラ整備まで大きな転換期を迎えていることは間違いないだろう。
●業界ニュース「輸送機械」