電力自由化の流れを受けてスタートした電力小売会社(新電力会社)は、資材価格やエネルギー高、電力卸市場の高騰で一時逆ザヤ状態となるなど経営危機にさらされている。2023年3月時点の調査では、706社のうち累計195社が「契約停止、撤退、倒産、廃業」となった。大手電力会社でも、10社中8社が2023年3月期の連結決算で最終赤字を計上した。
4月1日には、電力の送電にかかる費用である託送料金が引き上げられ、6月1日には、経産省から規制料金(経過措置料金)改定の認可を取得した大手電力7社が値上げを実施し、新電力会社も価格転嫁に動いている。政府は需要家の電気料金の値上がりを軽減するため、総合経済対策に基づき「電気・ガス価格激変緩和措置」を実施したため、需要家にとっては価格が抑えられているがそれも今年9月までとなっている。安定した顧客確保が必要な新電力会社は引き続き電力卸市場の価格変動の影響にどのように対応するのか、先行きが注目される。
本調査では新電力会社の撤退・再開動向についての最近の状況を集計・分析した。
2021年4月時点で登録のあった「新電力会社」(登録小売電気事業者)706社のうち、2023年6月25日時点で「電力事業の契約停止(新規申し込み停止を含む)や撤退、倒産や廃業」が判明したのは180社(構成比25.5%)となり、3月時点の195社から15社(7.7%)減少した。3月時点で「契約停止」となっていた112社のうち31社(同27.7%)がサービスを再開(一部再開を含む)したことで、「契約停止」企業が減少した。
電力卸市場のシステムプライス平均価格(スポット市場での30分ごとの電力取引価格)は、2022年は平均22.4円と高値で推移していたが、2023年6月時点では平均11.5円とほぼ半値に下落している。新電力会社の倒産や撤退で契約継続が困難となり、無契約状態となったため大手電力会社等から供給を受ける「電力難民」企業(最終保障供給契約件数)も6月時点で1万7414件と、ピークとなった2022年10月(4万5871件)に比べて62.0%減少している(電力・ガス取引監視等委員会6月1日公表)。
停止・撤退等となった180社の態様を分類すると、最も多いのは「契約停止」の87社(構成比48.3%、3月比22.3%減)で、次いで電力販売事業からの「撤退」は64社(同35.6%、同12.3%増)、「倒産・廃業」は29社(同16.1%、同11.5%増)となった。
「契約停止」は、新たに判明した10社が追加された。「撤退」は、「停止」から「撤退」に移行した企業も発生した。「倒産」は、熊本電力(株)(熊本県、3月破産、負債28億円)、(株)Optimized Energy(東京都、3月特別清算)、(株)ウエスト電力(東京都、5月特別清算、同25億8700万円)の3社が発生した。
事業を継続している613社の動向をみると、198社(構成比32.3%)が「値上げ」の動きを取っていることがわかった。
198社のうち、143社(同72.2%)が2023年に入ってから「料金の改定・変更・見直し」を発表した。このほか、55社(同27.8%)が、実質値上げと捉えられる「燃料費調整金」(市場価格が変動した際に電気代に反映できるものとして利用されている)の導入、不特定多数に対して大量の取引を行う際の取引条項を定める約款の変更や改訂、料金プランの変更などをホームページで記載していた。「料金の改定・変更・見直し」を公表した企業は、託送料金や規制料金の引き上げ、広く電力高騰の厳しい市況などを主な理由としていた。
なお、電力高騰以降、2022年末以前に価格を見直している企業もあり、実際にはさらに多くの新電力会社が価格改定に動いていたとみられる。
本調査では2021年4月時点で登録のあった706社の動向を見てきたが、収益確保が難しい状況の中で「契約の停止」や「撤退」「倒産」が発生し続けている。その一方で、電力卸市場の落ち着きや価格転嫁の動きなどから、サービスを再開する企業数が2023年3月から27.7%増加した。また、約3割の企業が託送料金や規制料金の値上げを背景に、価格改定を行っていることがわかった。
資源エネルギー庁の登録小売電気事業者一覧においては、2021年4月末時点からこれまで58社が抹消される一方、2023年6月までに83社が登録されており、新規参入企業も一定のペースで増加し、登録業者は6月23日時点で731社となっている。新電力会社には、顧客の囲い込みを行うなかで、市場連動型のプランを採用していることで変動リスクがあることへの注意喚起を促すことが求められている。しかし、6月には価格などの内容の説明が不十分であること等で、業務改善勧告を受ける業者が発生している。資源エネルギー庁でも需要家が安定してサービスを受けられるよう環境の整備について議論を進めており、「需要家への説明義務」が今後も大きな課題となっている。
2023 年度の夏季電力需給は、10 年に1度の猛暑を想定した電力需要に対し、全エリアで安定供給に最低限必要な予備率3%を上回っている。ただ、東京エリアは、7月が厳しい見通しとなっており、電力卸市場で大きな変動が生じれば、再び「契約の停止」や「撤退」「倒産」によって「電力難民」企業が増える可能性もあり、各社の対応が注目される。