2022年は、2月のロシアのウクライナ侵攻により、世界的にエネルギー価格高騰や物価高が加速し、経済成長の鈍化を招いた。また、国内外で金利引き上げが相次ぎ、市場での警戒感が高まるなど、いまだ不安材料は尽きない。他方、国内ではコロナ関連の制限が解除され、2023年は経済社会活動の活発化が期待される。
野村證券株式会社の公開引受部次長、多田寛之氏に、2022年のIPO の特徴、そして2023年の動向について聞いた。
2022 年のIPO は91 社と、前年(2021年:125社)を下回りました。
ただし、2021年は前年に新型コロナ感染拡大の影響でIPO を見送った企業が一気に出た反動により急増した経緯があります。2022年はロシア・ウクライナ侵攻があったにもかかわらず、90社台に達しており、近年のIPO 社数をみると相応の水準を維持しました。
情報通信、サービスが多いという傾向は変わらないものの、情報通信の社数が前年比21社減少の32社にとどまりました。
背景には、金利上昇によるハイグロース(高成長)のテック系銘柄に対するバリュエーション(企業価値評価)の視点の変化があります。
テック系企業のバリュエーションが高かった2021年は、赤字でも高成長が見込まれる企業はPSR(株価売上高倍率)といった売上高の基準の評価が主流でしたが、2022 年はマーケットの悪化により、投資家は足元の利益や業績の確実性などを優先するようになり、PER(株価収益率)など利益を基準とした評価にシフトしました。
その結果、特にテック系企業のバリュエーションが低下したことが一因となり、IPOの時期を先延ばしにする動きが見られました。
規模の観点では、ディールサイズ(公募・売出し+オーバーアロットメントの合計額)の小型化が顕著でした。
2021年はディールサイズ100億円超えが18社あったのに対し、2022年は3社にとどまりました。同10億円未満が38社と全体の41.8%を占め、年前半は投資家の需要動向を見てディールサイズを絞るような、慎重なディール運営も見受けられました。
ディールサイズ上位の顔ぶれも、テック系企業が好調だった2021年は上位10社のうちビジョナル、エクサウィザーズ、Appier Groupなどの情報通信が8社占めましたが、2022年は1社も入りませんでした。2022年はソシオネクスト(10月)、大栄環境(12月)、スカイマーク(12月)などの既存産業が上位を占めました。
また、比較的大型案件となるバリュエーションを重視するPE ファンドが関連する案件が、スカイマークのみと少なかったのもディールサイズが小型化した一因といえます。