本連載では日本企業の進出先として想定される世界各国の政経情勢を取り上げる。第13回はフィリピンを紹介する。景気は2022年秋にかけて好調が続くが、その背後ではインフレが進み、中央銀行が利上げを続けている。以下では、最近の好景気の要因や物価・金融政策の動向、フィリピンに潜在する「強み」、2022年6月に発足したマルコス政権の経済政策スタンスなどを整理した上で、フィリピン経済の先行きを展望する。
フィリピン経済は、2020年の実質GDP 成長率が▲9.5% と新型コロナウイルスの感染拡大を受けて大きく落ち込んだが、2021年には+5.7%と持ち直し、さらに2022年には7~9月期にかけて前年同期比で+8% 前後の高い伸びが続いた(1~3月期+8.2%、4~6月期+7.5%、7~9月期+7.6%)。
2021年中の景気持ち直しでは、ドゥテルテ前政権が「ビルド・ビルド・ビルド」と名付けたインフラ投資拡大策が牽引役となった。そして2022年、特に春以降の高成長には、インフラ投資の拡大に加えて、外出制限解除や入国規制緩和※1を受けた個人消費やインバウンド需要の復調、および企業設備投資の積極化が寄与した。
ただし、財の輸出は、主要輸出先の中国をはじめとした海外経済の減速に伴い、主力品の半導体を中心に緩慢な伸びにとどまっている。
また、こうした高成長の背後で、インフレ率(消費者物価の前年比)の上昇が2022年入り以降顕著となっており、10月は+7.7%と14年ぶりの高い伸びになった。最近の高インフレには、①夏場にかけての原油価格高騰の影響波及(交通運賃の値上げなど)、②穀物・肥料の国際価格高騰や国内の天候不順による食料品価格の上昇、③貿易赤字拡大や米国金利上昇を背景とした通貨ペソ安に伴う輸入物価の上昇といったコストプッシュ要因と、個人消費などの内需の好調というディマンドプル要因が重層的に作用している。