2017年度に始まった「健康経営優良法人認定制度」の申請企業数は年々増加、2022年には大規模法人部門で2,299法人、中小規模法人部門で12,255法人が認定された。認定企業数は2020年以降に急増しているが、その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大がある。
感染予防対策が必要になったことに加え、感染時の症状の重さが基礎疾患の有無に左右されることが、企業における従業員の健康管理に対する意識を高めた。また、外出自粛や在宅勤務の増加による運動不足やメンタルヘルス悪化といった新たな健康問題が発生したことも、健康経営に対する関心の高まりにつながったと考えられる。
そのような中、帝国データバンクでは経済産業省の「健康経営優良法人2022」に認定された中小企業を対象に、「健康経営」への取り組み内容や得られた効果、コロナ禍の影響などについてアンケート調査を実施した。
【調査期間】 2022年9月16日~9月29日
【調査方法】 郵送調査
【分析対象】 1,624社(回答率:36.4%)
健康経営推進のためにすでに取り組んでいる項目として最も多かったのは「健康診断の受診義務化」(96.9%、1,571社)であった。
労働安全衛生法により労働者の定期健康診断受診が企業に義務付けられたことから、ほぼ全企業が実施済みと回答した(図1)。
2番目に多かったのは「感染症対策の実施」で、コロナ禍の影響により92.1%(1,493 社)の企業が実施済みであった。
これらに次いで多かったのは「長時間労働の是正」(79.9%、1,295 社)、「休暇取得の推進」(79.3%、1,285社)といった、労働時間短縮に関する取り組みであった。従業員の健康維持に加えて、労働生産性の向上が日本経済の大きな課題となっていることもあり、各企業がより少ない時間で成果を上げるための取り組みを進めている。
一方で、メンタルヘルスケアへの取り組みは、まだ途上にある。
2015年12月以降、労働安全衛生法により労働者50人以上の事業所では年1回のストレスチェックが義務付けられた。そのため、「メンタルヘルスチェックの導入」を行っている企業は過半数(55.6%、902社)を占めた。しかし、「メンタルヘルス不調者に対する支援強化」(31.0%、502社)、「メンタルヘルス研修の実施」(23.5%、381社)に取り組んでいる企業は、2~3割程度にとどまっている。
こうした状況を反映し、健康経営推進のために今後取り組む項目としては、メンタルヘルスケアを挙げる企業が多かった。
最も多かったのは「メンタルヘルス研修の実施」(44.2%、557社)、2番目に多かったのは「メンタルヘルス不調者に対する支援強化」(42.5%、536社)であった。関連して「メンタルヘルスチェックの導入」も29.7%(375社)を占めた(前項、図1)。
従来から問題視されてきた過重労働によるメンタルヘルス悪化に加えて、新型コロナ以降は在宅勤務による人とのコミュニケーション不足、オンオフ切り替えの難しさや生活リズムの乱れなどが新たなメンタルヘルス悪化要因として浮上した。そのような中で、企業のメンタルヘルスケアに対する意識も向上しつつある。
調査対象企業には、すでに取り組んでいる/いないに関わらず、自社にとって重要だと考える項目についても聞いた。
最も多く挙げられたのは「在宅勤務の導入、推進」(46.2%、553社)であった(前頁、図1)。コロナ禍が長期化する中で、感染予防のためのみならず、通勤にかかる時間や労力の削減効果から、出勤と併存させるハイブリッドワークも含めて、在宅勤務を重要視する中小企業が増えている。
2番目に多かったのは「オンラインやアプリなどデジタルツールによる健康指導」(41.4%、496社)であった。近年はスマホアプリを活用した法人向けの保健指導サービスが増えており、中小企業が導入しやすいものも多い。在宅勤務が広がりを見せる中、オンラインでの健康管理は、今後利用拡大が見込まれる。
次いで多かったのは「メンタルヘルス研修の実施」(39.8%、477社)、「メンタルヘルス不調者に対する支援強化」(38.4%、460社)といった、メンタルヘルスケア関連の取り組みであった。
これらメンタルヘルスケアは、設問の「b.これから重点的に取り組む予定の項目」と「c.取り組み有無に関わらず、自社にとって重要だと考える項目」の双方で上位に挙げられている。生活習慣病予防をはじめ身体面に焦点が当てられがちであった企業の健康管理において、メンタルヘルスの重要性に対する認識が高まっている。