中小企業基盤整備機構(中小機構)は国の中小企業政策の中核的な実施機関として、起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、企業の成長ステージに合わせて幅広い支援を行っている。
事業承継支援もその重要な役割の一つであり、中小企業の円滑な事業承継に向け、講習会や専門家による相談対応など様々な支援を行っている。
同機構の事業承継・再生支援部参事 美野洋二氏に、最近の取り組みについて聞いた。
少子高齢化という社会情勢の中で、親族内での事業承継が次第に難しくなりつつあります。そのため、国による事業承継支援策の軸足も親族以外への事業承継、いわゆる「第三者承継」に移りつつあります。2021年4月には、官民が今後5年間に取り組むべき計画となる「中小M&A推進計画」が公表されました。今は、同計画の1年目が終了したところです。
大きな動きとしては、2021年4月に「事業承継・引継ぎ支援センター(以下、センター)」が発足し、これまで親族内承継の支援を行ってきた「事業承継ネットワーク」と、第三者承継を支援してきた「事業引継ぎ支援センター」の機能が統合されました。
親族内承継と第三者承継の両方の相談窓口が一本化されたことで「事業承継に関する相談ならセンターへ」という相談ルートが確立され、相談の間口も広がりました。各地域の事業承継支援機関も、相談企業をセンターに紹介しやすくなったと思います。
その結果、令和3年度のセンターの相談者数および第三者承継(M&A)の成約件数は、ともに過去最高となりました。
相談者数は2万841者で、前年度比178%増と大幅に増加しました。これは、従来の第三者承継の相談に加えて親族内承継の相談も合算されるようになった影響が大きいです。
成約件数は同110%増の1514件となりました。これは第三者承継だけの件数となります。親族内承継については、「事業承継計画の作成」まで支援したものをカウントすると、支援件数は1043件でした。
センターの1年目の活動では、まず事業承継ニーズの掘り起こしに、重点的に取り組みました。事業承継支援のすそ野を広げ、センターに相談する企業の分母を増やす活動です。
まず、各地域に事業承継ニーズの掘り起こし役として「エリアコーディネーター」という役職を新設しました。この職には地元経済や企業に精通した方、例えば地元金融機関や商工会、商工会議所のOBの方が採用されています。
各都道府県には自治体、地域金融機関、商工会、商工会議所、士業団体などからなる「事業承継ネットワーク」が組織されており、それぞれの機関の事業者支援活動の中から、事業承継ニーズを拾い上げています。
エリアコーディネーターは、そうした活動をサポートします。また、掘り起こされた事業承継ニーズの課題を整理し、各地のセンターの担当者につなげる役割も果たしています。
そう思います。そして、M&Aに対するハードルをさらに下げるためには、それによって企業がさらに成長できたという成功事例を増やしていくことが重要だと考えています。
今までの第三者承継支援は、企業と企業をマッチングさせて事業を引き継がせることに重点を置いていました。しかし今後は、M&Aを単なる事業継続の手段ではなく「中小企業を成長させる一つの方策」として、活用していく方針です。
成功事例を周知し、事業承継に取組む機運を醸成していく広報活動も重要です。中小機構ではウェブサイトや広報誌での事例紹介のほか、毎年「事業承継フォーラム」というイベントを開催し、事業承継経験者の講演などを実施しています。21年度はコロナ禍によりオンラインでの開催となりましたが、完全視聴者数が約4万回と、これまでリアル会場で開催していたよりも多くの方に参加いただけました。ウェブサイトにアーカイブ動画が残っていますので、ぜひご覧ください(以下のQRコードからアクセス可)。
自社が持っている経営資源を棚卸しして「見える化」しておくことです。自社のノウハウは「社長の頭の中にある」だけでなく、第三者にも理解できる形にしておく必要があります。
中小企業の経営資源で重要なのは「知的資産」です。これには特許や商標といった知的財産だけでなく、社長の人脈、従業員の技術といった目に見えない無形の資産すべてが含まれます。
実はそうしたところに、その会社の本当の価値があるのです。それを第三者にもきちんとわかるようにしておくことが、M&Aをスムーズに進めるポイントです。
一つ目は「できるだけ早く動いていただきたい」ということです。なぜなら、動くのが遅れれば遅れるほど、選択肢が狭まってしまうからです。
二つ目は、先に申し上げた通り、「ぜひ自社の経営資源の棚卸しをしていただきたい」ということです。それによって自社の課題も見えてきますし、そこを改善することで業績が上がれば、企業の価値向上にも繋がります。
経営の棚卸しについては、地元の商工会、商工会議所のほか、国が各都道府県に設置している「よろず支援拠点」などでもサポートしています。これらの機関はセンターとも連携しています。
ですので、事業承継に関するご相談は、まずは各地のセンターにしていただきたいと思います。ハードルは決して高くありませんので、ぜひお気軽にご活用ください。