2018年12月以降棚上げされていた米中貿易摩擦は、閣僚級による協議が不調に終わったことで再燃し、双方による「関税引き上げ合戦」が始まった。それとは別に米国は、安全保障上のリスクを理由に、中国ファーウェイ社製の通信機器・端末の排除でも強硬な姿勢を打ち出している。
こうした動きが日本企業の中国事業にも影響し始めている。今後の中国経済はどうなるのか。そのなかで日本企業にはどのようなリスクとチャンスがあるのだろうか。
2019年3月、中国の第13期全国人民代表大会(国会に相当)において、同国の李克強首相は2019年の経済成長率の目標を「6~6. 5%前後」と発表した。
18年の実質GDP 成長率は、28年ぶりの低成長となる6.6%だった。主な要因としては「①デレバレッジ(過剰債務削減)政策の副作用による固定資産投資の減速」、「②米国との貿易摩擦表面化」、「③スマホはじめIT 機器の在庫調整」などが挙げられる。
要因①に対し、中国政府は構造改革路線を一時棚上げし、金融緩和・財政出動による景気下支えに方針転換した。具体的には「a. 預金準備率引き下げによる融資促進」、「b. 企業の税・社会保険料負担の軽減」、「c. インフラ投資のための地方債発行枠拡大」、「d. 自動車や家電に対する購入補助金や所得税減税などの消費刺激策」などである。
要因②については両国高官による協議が不調に終わり、米トランプ政権は2019年5月10日に、前年9月に発動した対中制裁関税第3弾(中国からの輸入品約5,700品目、約2,000億ドル相当が対象)の税率を、10%から25%に引き上げた。
さらに5月13日には、これまで関税対象外であった3,805品目(約3,000億ドル相当)の製品に、新たに最大25%の関税を課す「第4弾」の対中制裁関税案が発表された。対象には衣服、履物、テレビ、パソコン、携帯電話などの身近な消費財が含まれ、医薬品などの一部品目を除いて、中国からの輸入品のほぼすべてが関税対象となる。対する中国も報復関税の実施を宣言するなど対決姿勢を強めており、両国の通商摩擦はエスカレートの一途をたどっている。
さらに米国は、情報漏えいリスクがあるとして、中国の通信機器大手ファーウェイの製品について、同盟国市場からの排除を進めている。米中の対立は、ハイテク産業における覇権争い、さらには国際社会でのリーダーシップをめぐる争いへと発展しつつある。
大規模な景気対策により19年後半には持ち直すとの観測も出ていた中国経済だが、米国との対立激化から再び警戒感が高まっている。中国経済の見通しおよび日本企業の取るべき道はどのようなものなのか、次の記事に識者の見解を掲載する。