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2019年5月「令和」へ改元となり、祝賀ムードとともに新しい時代が幕を明けた。2019年は4月に「働き方改革」や「改正出入国管理法」など制度改正や法改正があったほか、7月の参議院議員通常選挙や10月の消費税率引き上げが予定されており、政治・経済の動向を左右する大きなイベントが控えている。

本章では、平成の30年間の変遷を各種経済統計や帝国データバンクの保有するデータなどから俯瞰するほか、ICT を利用した新しい働き方を推進する企業や外国人材の採用を積極的に進めている企業など、変化をチャンスととらえて成長を遂げている企業をキャッチアップする。また、リスクへの対応では、チャイナリスクと日本企業の動向について専門家の意見をもとに展望するほか、事業継続について取り組んでいる企業とBCP の必要性を紹介していく。

1.景気変動から平成経済を振り返る

平成30年間における景気変動を日銀が公表している「短観DI」をもとに確認すると大きな谷が4回出現していることが確認できる(図表1)。

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1989年12月29日に日経平均株価は取引時間中の高値が3万8,957円44銭となり史上最高を記録したが、その後のバブル崩壊により、94年3月に企業規模、業種を問わずDIが大幅に悪化し、最初の谷を形成した。

95年12月に政府はバブル崩壊で不良債権が積み上った住宅金融専門会社に対し、公的資金を投入する救済策を発表したが、その後膨大な不良債権を抱えた多くの金融機関で経営状態が悪化し、97年11月に北海道拓殖銀行が経営破たんとなったほか、山一證券が自主廃業を決定、続く98年12月には日本債券信用銀行が経営破たんとなり、一時国有化された。DIは98年12月に中小企業製造業でマイナス60となるなど、94年の谷よりも深い谷を形成した。

2001年(平成13年)はIT 不況が契機となり、翌年の02年3月に中小企業製造業のDIがマイナス51と大きな落ち込みをみせ、3番目の谷を形成した。内閣府「平成13年度地域経済レポート2001」によると、「IT 関連産業における世界的な供給過剰により米国、欧州ともに急激な在庫調整に直面し、日本も同様に大幅な生産調整を余儀なくされた」と当時の状況を分析している。

08年9月には、サブプライムローンの焦げ付きなどで経営難に陥った米国の投資銀行リーマン・ブラザーズが米連邦破産法11条の適用を申請し、破綻した。この「リーマン・ショック」が引き金となり、世界的な金融危機による不況が深刻化、世界各国で金融機関による「貸し渋り」「貸しはがし」などのクレジット・クランチが拡大した。国内においても中小企業の資金繰りに多大な影響が及び、連鎖倒産が多発。翌年の09年3月には大企業製造業のDI がマイナス58となったことで4番目の谷を形成することとなった。

2.大型倒産から激動の平成を振り返る

「リーマン・ショック」翌年の09年(平成21年)の倒産状況や平成の大型倒産について振り返っていきたい。

帝国データバンクが2010年1月に発表した「全国企業倒産集計2009年報」によると、09年の倒産件数は1万3,306件となり、3年連続の前年比増加となった。倒産集計は会社更生法、民事再生法、破産法、特別清算による法的整理を対象としているが、現集計で集計可能な2000年以降で、09年は年間最多倒産件数となっている。

一方、負債総額は6兆8,101億4,700万円となり、前年の11兆9,113億200万円と比べ、42.8%の大幅減少となった。

主因別では、「不況型倒産」が1万833件(前年9,992件)で、前年を8.4%上回った。構成比は81.4%で前年の78.8%を上回り、初の80%台となった。

平成の大型倒産をみると、00年(平成12年)10月に協栄生命保険が負債4兆5,297億円で更生特例法の適用を申請した(図表2)。同年はそのほかにも千代田生命保険がバブル崩壊後の低金利による「逆ザヤ」などから業績が悪化し、負債2兆9,366億円で更生特例法の適用を申請、東証1部上場の信販会社ライフが5月に負債9,663億円で会社更生法適用を申請するなど、大型倒産が多発した。00年以降の年間負債総額では、00年が21兆8,390億7百万円で最多となっている。

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3.改元に関する企業の意識調査にみるチャンスとリスク

続いて、改元に対する企業の意識調査から企業が考えているチャンスとリスクを考察したい。

帝国データバンクの「改元に関する企業の意識調査」(2019年3月)によると、4割以上の企業が自社に影響ありと認識しているという結果となった。

業界別では、『サービス』と『小売』で「プラスの影響がある」と回答する企業が他の業界と比較して高い結果を示した(図表3)。両業界においては、個人消費の拡大や改元特需を期待する企業のほか、「ミレニアム婚同様、婚礼ニーズの拡大を見込む」といった意見にあるように、改元という一大イベントを業容拡大のチャンスとして戦略的にサービス・商品展開を検討する企業もみられた。

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他方、『金融』においては約3割の企業で「マイナスの影響がある」と回答しており、改元に対する諸経費の増加や大型連休による市場取引への悪影響を懸念する声が聞かれた。

平成から令和へ元号が変化し、プラス要素とマイナス要素が混在するなか、変化を新たなチャンスとしてとらえることにより、企業のさらなる成長が期待される。

4.企業を取り巻くチャンスとリスク

ここまで、各種統計データやアンケート調査結果から平成を振り返りつつ、改元に関する企業の意識をみてきたが、ここからは企業を取り巻くリスクとリスクについて考察していきたい。

チャンス:ICT 利用と新しい働き方

総務省の「平成30年版 情報通信白書」によると、「総人口の減少に加えて生産年齢人口の割合も減少することが見込まれている以上、現状のままでは一人あたりGDP を維持するのは困難であり、生産年齢人口の割合が減少する中でも一人当たりGDP を維持し、持続的成長を図るためには、労働参加と生産性の向上が不可欠である」と指摘している。

ワークスモバイルジャパン 株式会社は、ビジネス版コミュニケーションアプリ「LINE WORKS」の提供を通して、多くの企業の業務スピード向上に貢献している。

同社 代表取締役社長 石黒 豊 氏は

「プライベートのコミュニケーションと同じように気持ちを伝えながら仕事をすることは重要です。それが可能となればスムーズなコミュニケーションができ、自然と闊達な情報交換や、報・連・相が可能となるので、仕事の生産性もおのずと向上するものと確信しています」

と語っている。

2019年は働き方改革スタート元年となり、大企業も中小企業も働き方の見直しを迫られている。

ビジネスチャットなどICT ツールの利用を通して、コミュニケーションの活性化と業務スピードの向上、さらには生産性の向上につながることが期待される。

チャンス:ダイバーシティと人材活用

前述のとおり生産年齢人口が減少するなか、人手不足は多くの企業にとってリスクとなっている。そのような状況において、外国人材を積極的に雇用することにより自らの成長につなげている企業もみられる。

経済産業省では、高度外国人材の活躍推進に向け、外国人材の活躍を新たな海外市場の獲得などのビジネスチャンスにつなげている企業の事例を公表している。

そのなかで、外国人材の採用や登用で得られるメリットとして①事業の海外展開、新規顧客の獲得、②外国人材目線での商品開発・サービス提供、③新たなビジネスモデル構築、④社員の意識変革など4つの視点で分類している。

株式会社 コスモテックは海外市場向けの技術営業などで外国人を登用しており、全従業員の約2割を外国人従業員が占めている。

同社 代表取締役社長 高見澤 友伸 氏は中小企業における外国人材の戦力化のポイントとして次のように語っている。

「当社は外国人であることを理由に特別な対応・配慮をしていません。あくまで日本人を含めて同じ従業員ですので、評価の仕方も公平、違いはありません。ケアやサポート、育成のほか、適性をみた担当配置やジョブローテーションなども日本人と同様に考えます。」

外国人従業員を特別扱いすることなく、評価や育成において日本人従業員との公平性を確保し、戦力として育成している同社の取り組みは多くの中小企業に解決のヒントを与えてくれるといえよう。

チャンス:ニューテクノロジーとイノベーション

RPA テクノロジーズ 株式会社の親会社であるRPA ホールディングス株式会社は2018年3月に東京証券取引所マザーズに上場後、19年3月に一部へ市場変更している。RPAテクノロジーズの提供するRPAツール「BizRobo!」は、銀行や保険会社などの金融機関を主体に、さまざまな業種への導入実績を持つ。

同社 代表取締役執行役員社長大角 暢之 氏は

「マニュアル化できず、デジタルレイバー(仮想労働者)が対応できないイレギュラーなケースは必ずあります。それは人間にしかできない仕事です。そして、デジタルレイバーが創出してくれた時間で、彼らにはできない創造的な業務に人間は集中すればよいのです」

と語っている。

ロボットと共存しながら、人間とロボットの仕事を棲み分けることで、人間は創造的な業務に集中することが可能となり、そこから新たなイノベーションが生まれることが期待される。また、AI やRPA などのベンチャー企業の成長とそれらの技術の活用が今後の日本経済活性化の起爆剤となる可能性を秘めており、イノベーションの進展に大きな期待がかかる。

リスク:チャイナリスクと日本企業

米中貿易摩擦再燃にともなうチャイナリスクが、大企業のみならず中小企業へも深刻な影響をもたらすと懸念され、企業を取り巻くリスクとして大きな影を落としている。

株式会社 伊藤忠総研 チーフエコノミスト 取締役 マクロ経済センター長 武田 淳 氏

第4弾の関税が発表通りの内容で発動されれば、中国の輸出減速は避けられません。中国に対米輸出製品の生産拠点を設けている企業は体制の見直しを強いられるでしょう。中国への設備投資は滞り、経済は後退局面を迎える可能性を否定できません」

と日本企業へのリスクについて指摘している一方で、日本企業のチャンスとして以下のように語っている。

「中国では、これから経済のサービス化が進みます。日本がこれまで生み出してきたサービスが、中国で大きなビジネスになる可能性があります。」

企業にとっては、中国の動向をにらみつつ、成長に向けたチャンスとリスクのバランスを勘案し、事業の海外戦略において難しい舵取りを求められることになりそうだ。

リスク:自然災害と事業継続

次のリスク要因として、自然災害の発生にともなう事業停止が挙げられる。2019年版「小規模企業白書」によると、平成30年7月豪雨による中小企業の被害額は4,738億円となり、豪雨災害初の激甚災害となった。また、首都直下地震や南海トラフ地震の発生が想定されることに加えて、近年は水害の発生リスクも上昇している。このような大規模災害が小規模事業者の事業継続に及ぼす影響を小さくするには、自然災害に対する事前の備えが重要であると同白書で指摘している。

株式会社 河本総合防災は2012年に総合防災関連企業として世界で初めて事業継続マネジメントシステムの国際規格ISO22301を取得している。

同社 代表取締役 河本 伊久雄 氏と総務部長 小川 誠 氏は事業継続に取り組む企業へのアドバイスとして以下のように語っている。

「従業員が担う役割の大きな中小企業は、被災時に事業が回らなくなるリスクを軽減するためにBCPに取り組むべきです。大企業と比べ、意思決定プロセスがコンパクトなために進めやすいと思います。」地震や台風など自然災害のリスクは国内のいつ・どこでも発生しうるという前提に立ち、事業を継続するために準備することがますます重要となっているのではないだろうか。

以降の記事では、有識者ならびに企業へのインタビューと分析を通して、企業を取り巻くチャンスとリスクについて掘り下げていく。

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