内閣府によると2012年12月からの今回の景気回復期間は、2018年4月で65ヵ月となり、戦後2位のいざなぎ景気を超える長さとなった可能性が高い。実質GDPの変化では高度成長期と比べて今回の景気回復は穏やかな点が特徴といえる。
また、法人企業統計調査結果(財務省)によると企業収益は増収増益基調で推移しており、将来の成長を左右する設備投資も堅調に推移している。IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)など第4次産業革命などのイノベーションの進展が、今後、企業の生産性向上や新たなビジネス基盤の発展をもたらす可能性を秘めている。当節では、政府の未来投資政策のほか、設備投資状況、ハイグロースカンパニーの分析結果、支援機関・専門家や企業へのインタビューをもとに高い成長を遂げている企業の特徴を概観していきたい。
まずは、日本の成長力について経済成長率の指標である実質GDPをもとに考察していきたい。内閣府が2018年6月に発表した2017年度の実質GDP成長率は前年度比プラス1.6%と3年連続のプラス成長となった(図表1)。
国内需要では、個人消費や民間企業設備投資、公的需要がプラスに寄与した。 実質GDPは長期的にプラス傾向にあるものの、隣国の中国では日本を上回るスピードで成長を遂げている。先進国となった日本は一進一退を繰り返しながらも、穏やかな成長を遂げているといえる。
続いて政府が2017年6月に発表した「未来投資戦略2017」から今後の国の重点投資分野を確認していきたい。
同資料では、「中長期的な成長を実現していく鍵は、近年急激に起きている第4 次産業革命(IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、シェアリングエコノミー等)のイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決する「Society 5.0」を実現すること」としている。
また、「Society 5.0」に向けた戦略分野として、「移動革命の実現」や「サプライチェーンの次世代化」、「FinTech」など5つの分野を挙げており、国の政策資源を集中投入し、未来投資を促進するとしている。政府は「日本が世界の成長から遅れをとることで、先行企業の下請け化やガラパゴス化となってしまう」と強い危機感を示しており、「まずはやってみる」という「実証による政策形成」に舵を切ろうとしている。
2017年に上場した企業は90社あるが、そのなかでも「サービス」が47社と52.2%を占める。「サービス」のなかでもインターネット関連企業を含む「情報サービス業」が17社でトップとなり、IT関連企業が多くを占めている。
機械学習技術などを利用したアルゴリズム開発を手がけている「PKSHATechnology」のほか、クラウドERPの開発・販売やシステムの受託開発を手掛けている「ビーブレイクシステムズ」など今後の成長期待の高い企業が17年に上場を果たしている。
続いて、企業の収益状況と設備投資状況について概観していくこととする。
財務省が2018年6月に発表した法人企業統計調査結果(平成30年1~3月期)によると売上高は361兆7,780億円と対前年同期増加率(以下同)3.2%と増収基調となった。製造業では、「生産用機械」や「金属製品」が増収となったほか、非製造業では「卸売業」、「小売業」、「サービス業」、「建設業」などで増収となった。
一方、経常利益は20兆1,652億円となり、同0.2%増加した。製造業では「輸送用機械」や「情報通信機器」などが減益となり、製造業全体で同8.5%の減少となったが、非製造業全体では同5.0%の増加と業種により明暗がわかれた。
設備投資額は14兆7,720億円で同3.4%の増加となった(図表2)。
「情報通信機械」、「食料品」、「生産用機械」などで増加したことから、製造業全体では同2.8%の増加となった。非製造業では「運輸業」、「郵便業」、「不動産業」、「サービス業」などで増加となり、非製造業全体では同3.6%の増加となった。
IoTやAIなどの急速な広がりを背景に情報通信機器などを中心に設備投資が旺盛であるほか、インターネット通販の拡大にともなう荷物の増大と人手不足が深刻な運輸業を中心に省人化、省力化を促進するため設備投資が活発化している様子がうかがえる。
将来に向けた投資はリスクをともなうものの、企業は利益を確保し、次なる成長に向けて未来を予測しながら必要な投資を適切なタイミングで実施していく必要があるといえる。
企業の成長を左右する設備投資の計画についてはどのようになっているのだろうか。
帝国データバンクの「2018年度の設備投資に関する企業の意識調査」(2018 年5月16日)では2018年度に設備投資を行う予定(計画)が『ある』企業は62.4% となっている(図表3)。
設備投資の予定(計画)が『ある』企業を規模別にみると、「大企業」が70.7%、「中小企業」が60.3%、「小規模企業」が49.0% となり、「小規模企業」は「大企業」を21.7ポイント下回った。企業規模が小さくなるほど設備投資の予定割合は低くなっており、企業規模により状況が大きく異なる実態が浮き彫りとなった。
予定している設備投資の内容では、「設備の代替」が45.4%で最高となった(複数回答、以下同)(図表4)。
次いで、「既存設備の維持・補修」(35.7%)、「省力化・合理化」(28.2%)、「増産・販売力増強(国内向け)」(24.1%)、「情報化(IT化)関連」(23.8%)が続いた。
設備の老朽化にともなう更新投資を目的とする割合が高くなっているほか、人手不足の深刻化による省力化や合理化を目的とした投資が上位にあがった。
また、企業からは内部事務を省力化するためのシステム投資や人材不足が予測されるなか省力化に対応するための設備投資が必要という意見が聞かれた。
帝国データバンクでは、企業概要データベースCOSMOS2(147万社収録)より2013年から2017年にかけて5期連続増益の企業をハイグロースカンパニーとして抽出、分析した(詳細は5節を参照)。
業種別では「サービス」が最も多く、27.3%を占めた。次いで「卸売」(19.5%)、「建設」(18.1%)の割合が高いという結果となった。
「サービス」の中では、「情報サービス業」(6.7%)が最も多く、IT関連企業が成長企業の中核を担っている様子がみてとれる。
企業が今後取るべき戦略について、独立行政法人中小企業基盤整備機構の販路支援部長である村井振一氏は「他社と比べた自社のポジションという競争視点だけでなく、市場や顧客から『この商品があるから』、『あの会社があってほしい』といってもらえる存在になれるかどうかがポイントになる」と指摘している。
中小企業は、商品やサービスの独自性を武器に取引先にとってオンリーワンの存在となることが販路拡大と企業の成長にとって重要であるといえる。
つづいて、企業側の視点で企業が成長していくためにどのような点が重要となるのだろうか。
株式会社ジェーラインエクスプレス代表取締役社長の浅野憲夫氏は「会社を存続、成長させるためには、信頼関係を熟成することが大事です。信頼関係は、お客さまとの関係もさることながら、労働集約型の物流会社では、特に従業員との信頼関係も大事です」と語っており、顧客や従業員との信頼関係の構築が成長の秘訣といえる。
株式会社マテリアル代表取締役社長の細貝淳一氏は、企業が成長するためのポイントとして「明確な目標を持ち、多くの情報を集め未来を予測し、社員の成長を導いていく事が、経営者の仕事である」と語っている。
また、同社ではISO9001(品質マネジメントシステム)やJISQ9100(航空・宇宙・防衛 品質マネジメントシステム)のような第三者機関による認証を取得し、技術力や信頼性を客観的にアピールすることで、大企業を中心に取引を拡大し、収益向上につなげている。
成長企業に共通する特徴として人を大切にする経営学会の理事・事務局次長である藤井正隆氏は、「売上高や利益だけを追い求めるのではなく、利益を株主や従業員に還元し、適正な利益を計上している企業は社会的な評価も高く、着実な成長をしている」と指摘している。
従業員など「人」を大切にすることが企業の成長につながるという点で、前述の成長企業の社長と同様の見解であった。企業が成長を遂げていくためには、従業員を大切にして、育成していくことが重要であることをあらためて認識することとなった。
今後、日本では生産年齢人口の減少にともない人材不足が経営上の不安要素として浮上しており、成長の足かせとなるリスクが顕在化している。
また、小売業を中心に発生した「アマゾン・エフェクト」は他の産業にも波及しており、業種を超えた戦いはかつてないスピードで進展している。このような産業構造に大きな変化が起きているなか、企業はどの土俵でどのように戦っていくかを見極める必要に迫られているといえよう。
AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの新技術の活用による業務効率化のほか、人材育成や能力開発を通じた生産性の向上など、将来に向けて次の一歩を踏み出せるかどうかが企業の成長を左右することにつながる。企業は自社の経営資源をどの分野に集中して投資することで、持続的な成長を実現していくかが問われているといえる。
そのようななか、中長期的に高い成長を遂げている企業も数多く存在している。次節以降では支援機関・専門家や高成長企業へのインタビューのほか、ハイグロースカンパニー分析などから高成長企業の特徴を紹介していく。