人口減少など国内外で環境が大きく変化するなか、2014年の第二次安倍政権時に掲げられた「地方創生」は、その後ローカル・アベノミクスとして展開されてきた。大都市を除く大半の地方においては、中小企業への就業者が8割以上を占めるなど、中小企業は地域経済および雇用を支える基盤となっている。
2017年は、景気の回復局面が高度成長期の「いざなぎ景気」を超え、戦後2番目の長さを記録するなど、本格的な景気回復への期待が高まるとともに、働き方改革や企業の生産性向上への関心が一層高まった。こうしたなか、地域経済の活性化に向けて、中小企業が地域との関連性をどのように意識し、今後の成長のためにどのような点に取り組んでいるのか。中小企業を取り巻く環境や政策、アンケート結果を通じて、中小企業が抱える課題を見ていく。
中小企業は、全事業者数の99.7%を占める。人口減少やリーマン・ショックなどにより、その数は減少傾向をたどり、1999年の約484万者から2014年は約381万者と、15年間で約100万者が減少している。
(総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」)このため、政府は成長戦略における重要テーマとして、「中小企業の活性化」を掲げており、政策面においても成長を求めて意欲的に取り組む企業に対する支援の姿勢が明確だ。
2016年3月には経済産業省より、企業診断の指標として「ローカルベンチマーク」がリリースされた。基本的な財務情報と非定性情報をもとに、業界における位置づけや強み・弱みを可視化できる簡易性のある汎用ツールである。
金融機関や商工会議所、士業団体など各種の支援機関で活用されるよう、2016年から2017年には組織横断的な活用戦略会議が催された。地方銀行における顧客との面談ツールとしての活用や中小企業向け会計ソフトのクラウドシステムでの項目追加など、現場で徐々に浸透していることが明らかになっている。
このほか、金融庁が金融機関に開示を求めている「金融仲介機能のベンチマーク」においても、担保・保証に過度に依存しない融資の対話ツールとして挙げられるなど、事業性評価の入口としても活用されている。
2016年7月に施行された中小企業等経営強化法では、事業者が人材育成やコスト管理などのマネジメント向上を目指し策定した「経営力向上計画」が認定されると、固定資産税の軽減や資金繰りなどの支援が受けられる。
認定件数は、2016年11月時点の5,644件から、2017年10月末時点では、37,325件と大幅に増加。業種別では、製造業19,483件(構成比52.2%)および建設業6,364件(同17.1%)で約7割を占める。卸,小売業2,745件(同7.4%)、医療・福祉業2,261件(同6.1%)、などサービス分野にも徐々に広がりを見せており、今後はこうしたサービス分野での利用促進が期待されている。
2017年6月に公表された「未来投資戦略2017」では、域内外のヒト・モノ・カネ・データの活発な循環を促進し、製造業、農林水産業やサービス業、スポーツ・文化関連産業など幅広い産業において、地域の特性を活かした成長産業の育成や良質な雇用を生み出すことを目指す。
その実現のために必要な施策として、①地域の現場の付加価値・生産性を向上させるIT 化・データ利活用等の促進、②成長資金の供給や人材・ノウハウの活用、③地域の面的活性化、圏域全体への波及が挙げられている。
ここで注目したいのは③地域の面的活性化、圏域全体への波及だ。
2014年の中小企業白書においてはコネクター・ハブ企業(地域中核企業)という、地域からより多くの仕入れを行い、地域外へ販売し、地域内外の結節点となる企業の概念が紹介された。2015年にはビッグデータを用いた地域経済分析システム「RESAS」(リーサス)がリリースされ、地域内におけるヒト・モノ・カネの流れが可視化できるようになっている。これにより客観的なデータをもとに、強み・弱みの分析が可能となったほか、地域に潜在的に存在する強さ、強みについての気づきも生まれる。企業間の取引関係など多様なデータを通じ、個別企業という「点」の意識だけではなく、地域という「面」をより強く意識し波及効果を促す効果的な分析・支援へと発展している。
こうしたなか、2017年7月には、「地域未来投資促進法」が施行され、国、自治体、支援機関、そして地域をけん引する企業が連携し、成長分野や事業へ取り組むための枠組みがスタートした。同法が目指す目的や概要は以降のインタビュー記事を参照いただきたいが、地域の中核企業や成長分野に取り組もうとする企業への集中的な支援を目指すものだ。
一方で地域経済成長の阻害要因として深刻化しているのが、事業承継問題だ。
経営者年齢のボリュームゾーンは、1995年には47歳がピークであったが、2016年には59.3歳と年々高齢化が進んでおり、特に地方における経営者の高齢化は顕著だ。
帝国データバンクが、代表者の年齢、後継者の有無、業績等から休廃業リスクを分析したところ地方の市町村において休廃業リスクが高いことが明らかになっている(図1)。
2016年に休廃業・解散した企業の代表者の年代をみると、60代(34.1%)が最多で、続いて70 代(30.6%)である。帝国データバンクの調査(事業承継に関する企業の意識調査2017年)では、企業の71.1%が事業承継を「経営上の問題のひとつとして認識している」ものの、事業承継の有無については29.1% の企業が「計画はない」としている。課題として認識はしているものの、一歩を踏み出していない企業がいまだ数多く存在する。倒産・廃業となった場合、技術やノウハウの消滅のほか、雇用の喪失など地域経済に対するマイナスの影響は大きい。
経済産業省の推計では、現状放置のままだと中小企業の廃業の急増により2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われるとしており、同省は「事業承継問題の解決なくして、地方経済の再生・持続的発展なし」と強い危機感を示す。中小企業庁は2017年度から各都道県に「事業承継ネットワーク」を構築し、都道府県の支援体制整備や事業承継診断の実施、各支援機関の連携体制の構築といった施策の強化に乗り出している。経営者全体の1割を団塊の世代が占める今、これからの10年間がまさに正念場となる。
2018年度(平成30年度)の税制改正では、事業承継税制の拡大などの優遇措置が検討されており、世代交代の後押しとなるか、その動向が注目される。
こうしたなかで中小企業は、地域との関連性をどのような点に見出し、今後成長に向けた事業展開においてどのような取り組みに関心を持っているのか。
今回、帝国データバンクでは、企業概要データベースCOSMOS2(146万社収録)より最新売上高が10億円以上、2期連続増益、従業員数30名以上の中小企業3,580社を抽出し、(1)地域との関連性、(2)成長に向けた事業展開の取り組みについてアンケートを行った(回答数629社、有効回答率17.6%)。それぞれの設問において、①現在取り組んでいる点と②今後取り組みたい点の2つの視点から質問した。
内容を見ると(1)地域との関連性において、①現在取り組んでいる点でトップとなったのは「地元人材の積極的な採用」(66.9%、母数を全回答数とした選択率、以下同様)。
業種別では、建設(82.4%)、製造(75.2%)、運輸(72.7%)がそれぞれ7割を超え、地域の雇用基盤となっているのがわかる。
また「地元に中核となる拠点(生産、営業、研究開発など)がある」(63.3%)も6割を超えた。次いで、「顧客が地元中心」(39.3%)、「社会貢献」(25.3%)と続く。商取引や雇用を通じた経済的貢献だけではなく、地域行事や災害対策などを通じて多数の中小企業が地域社会への貢献に積極的に取り組んでいることがわかる(図2)。
次に、地域との関連性において②今後取り組みたい点の回答を見てみると、トップとなったのは、「Uターン・I ターン人材の積極的な採用」(46.4%)である。
回答企業の半数近い企業が挙げている。業種別では、建設(54.9%)小売(50.9%)、製造(47.3%)、サービス(46.1%)などで関心が高い。地域別では、東北(63.2%)、北海道(61.1%)、九州・沖縄(58.1%)、甲信越(55.1%)、北関東(53.2%)、四国(51.6%)の11地域中6地域が5割を超えた。一方、三大都市圏を含む地域では、南関東(29.3%)、東海(44.1%)、近畿(34.4%)となり、地方と大都市圏という、地域間による差が判然とした。人材確保をめぐっては、「物流業として喫緊の課題が人材不足。人材がいても3Kイメージの業界のため、敬遠される。イメージを払拭できる様な環境整備が必須と感じている」(南関東、運輸)、「人材の確保を強める事が急務。ヒト、モノ、カネの中で最重要課題であり、魅力ある企業作りに努める事が課題」(北陸、卸売)と危機感は強い。
またUターン・Iターンの推進は人手確保という点だけではなく、外部経験を持つ多彩な人材を期待する面がある。「優秀な人材の確保・育成」(四国、サービス)や「次世代の育成等(教育、講習会等の参加、開催)」(九州・沖縄、製造)といった人材育成に対する関心は高く、多彩な人材が求められている(図2)。
成長に向けた事業展開について、現在の取り組みを聞いたところ、商品・サービス・技術力の開発強化(60.3%)がトップとなった。「より専門性の強い、自社オリジナルの特殊技術を今後も提供していくため、人材の育成や技術力の開発に力を入れていきたい」(北陸、建設)と独自性を意識し差別化が重要と意識されている。次いで、市場・地域でのシェア向上(54.7%)と続いた(図3)。
成長に向け今後取り組みたい点で、トップになったのは、設備投資やITの利活用による効率化・生産性向上(39.4%)。「人口減少下における中核人材の育成と生産設備のIoT化が重要だとの認識を持っている」(四国、農・林・水産)など、業種を問わず、関心が広がっている。次いで、女性・高齢者など多様な人材の活用(31.0%)であり、現在取り組んでいる比率(19.6%)と比較すると、11.4ポイント上回った。地元機関・企業や大学との連携(産学官金連携)23.1%も、現在取り組んでいる比率(10.3%)と比較すると、12.8ポイント上回り、関心が高いテーマであることがわかる。「地方の中小企業にはリソースが少ないため、都市部の大企業の事業拡大などに単独で対抗するのは困難。コア事業以外のノンコアな業務を連携、共同で合理化、人材採用育成するなど、共通のテーマに合同で取り組める様なインフラ整備が必要」(中国、卸売)といった、中小企業間の連携を提案する声もみられた(図3)。
以上、中小企業を取り巻く政策のほか、アンケート結果をもとに中小企業が地域における自社の取り組み、そして今後の成長に向けてどのような点を意識しているかを概観した。今回のアンケート結果では人材確保にきわめて関心が高い点が浮き彫りとなった。生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の減少にともない、人材不足が経営上の不安要素として今後拡大する可能性は高く、「外国人労働者雇用の規制緩和」(北陸、運輸)を求める声もみられた。
また「省人化、省力化の促進と労働力の安定化のために働き方(休み方)を工夫したい」(東海、運輸)という意見があがるように、働き方改革の動きもあいまって、効率的な働き方を求め企業の意識も変わりつつある。今後は、IT利活用による効率化、人材育成や能力開発を通じた生産性の向上に向け、具体的な取り組みに踏み出せるかが中小企業の成長のカギとなろう。
以降の記事では、2017年に施行された「地域未来投資促進法」の動向のほか、支援機関から見た地域経済活性化における中小企業の役割、地域に根差し成長を続ける企業事例を紹介する。有力中小企業が、成長に向けどのような取り組みに関心を持っているのかを参照いただきたい。