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2017年の国内経済は、上場企業を中心とした好調な業績を背景に緩やかな回復基調をたどっている。一方、北朝鮮による弾道ミサイル発射による地政学リスクの高まりや欧州を中心としたテロの連鎖、サイバー攻撃など、内外情勢には不透明感が高まっている。

 そのようななか、企業を取り巻く様々なリスクを想定し、有事においても事業を継続させるための対策を進める必要性が増大している。「第1章 今そこにある危機 事業継続マネジメントの必要性」では、リスクマネジメントの支援機関・企業やリスクマネジメントに取り組んでいる企業への取材のほか、BCP に対する企業の意識調査の結果などをレポートする。

1 企業を取り巻くリスク要因

2011年3月の東日本大震災では東北地方を中心に甚大な被害を受けた。放射線物質拡散による直接的被害のほか、風評被害などの間接的な被害は現在も続いている。また、原発停止にともなう計画停電により企業活動も大きな影響を受けた。その後、2016年4月には熊本地震が発生し、地震大国といわれる日本は常に地震のリスクと背中合わせの状態にあるといえる。2011年10月には日系企業が多く進出するタイにおいて水害により工業団地が被災し、日系企業の工場が操業停止となるなど多大な被害を受けた。

また、2017年5月には身代金を要求する「ランサムウエア」による被害が日本国内のみならず世界各国で拡大した(図表1)。

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このように天災、地政学リスク、情報漏えい、サイバー攻撃、無差別テロなどの様々なリスクが発生しており、企業を取り巻く環境は不透明感が高まっている。リスクに直面した際に冷静に事業を継続させるためにも平常時から準備することが重要である。

2 震災関連倒産の動向

次に、天災の中でも特に被害が甚大であった東日本大震災と倒産の動向をさぐる。帝国データバンクが2016年3月に発表した「「東日本大震災関連倒産」(発生後5年間累計)の動向調査」では、2011年3月から2016年2月までの5年間で、「東日本大震災関連倒産」は1,898件判明し、負債総額は1兆6,366億4,900万円となった。

5年間の被害分類別件数では、社屋の倒壊や津波による浸水被害などの「直接的被害」を受けた倒産は180件(9.5%)と、全体の1割未満にとどまった一方で「間接的被害」を受けた倒産は1,718 件(90.5%)判明した(図表2)。

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「間接的被害」の内訳は、「消費マインドの低下」が1,080件(56.9%)と過半数を占め、最多となった。

次いで、物流網の混乱による調達難などの「流通の混乱」が123件(6.5%)、工期や納期の延期などによる「生産計画の変更・頓挫」が115件(6.1%)となった。

また、「得意先被災」が96件(5.1%)、「連鎖倒産」が85件(4.5%)、「仕入先被災」が30件(1.6%)発生となるなど、震災により通常の生産活動や流通経路が被害を受けたことが要因となっているほか、取引先の被災により倒産に至る企業もみられた。

3 サプライチェーン寸断の影響

東日本大震災では、被災したエリアにおいて部品製造が停止したことにより直接的な被害のなかった地域の自動車生産が中断するなど、サプライチェーンの寸断により日本全体の生産活動が大きな被害を受けることとなった。

内閣府「平成24年度 年次経済財政報告」において、サプライチェーンに関する分析がみられる。同報告書によると、大震災直後の2011年3月は、全産業の7割程度の事業所で生産・販売にマイナスの影響が発生しており、製造業のみならず幅広い業種でサプライチェーン寸断の影響が及んでいた。

製造業の資本金別では、「大幅に減少」の回答が資本金10億円以上の規模では他の規模に比べて顕著に少ないことから、資本金が10億円を超えるような大規模企業においては、仕入先も多岐に渡るため、仕入先の被災の影響は受けるものの、大きな影響が生じる場合は、他の仕入先からの調達を増加させることで全体の影響を緩和させたと考えられるという。

一方、中小規模の企業においては代替余地が大規模企業に比べて少ないことが想定され、生産や販売へのマイナスの影響が大規模企業よりも大きいという結果となった。

トヨタ自動車のサプライチェーンは、約3万社、1万3千拠点にのぼる。同社は震災後にサプライチェーンを把握し、可視化することに取り組んでおり、クリティカルな部品について、汎用化、規格化、生産分散、複社発注、在庫見直しなどの対策を進めているという(財団法人企業活力研究所「東日本大震災を踏まえた企業の事業継続の実効性向上に関する調査研究報告書」)。

中小企業ではトヨタ自動車ほど多くのサプライヤーと取引することはないものの、サプライチェーンの可視化や複数発注など危機管理という点からオペレーション戦略や生産戦略を検討・実行する姿勢には学ぶべき点は多いといえる。

また、中小企業は大企業へのサプライヤーという立場でサプライチェーンを構成していることが多いことから、大企業へ安定的に製品や部品を供給することができる体制を構築し、信用力を高めるなど仕入先として選定されるための日々の改善活動を含めた取り組みが一層重要になっている。

4 BCPに関する企業の意識

経済産業省中小企業庁の「2016年版 中小企業白書」によると、自然災害の頻発やIT導入にともなう情報セキュリティの必要性の高まりにより、大企業はリスクへの対策を進めているが、中小企業におけるBCP 策定率は15.5% と中小企業の取り組みは遅れているとしている。

また、帝国データバンクが2017年6月に発表した「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2017年5月)」においても、BCPの策定状況は、「策定している」企業が14.3%にとどまっている(図表3)。大企業が40.2%であるのに対して、中小企業が12.3%となっており、中小企業において取り組みが進んでいない状況が浮き彫りになる結果となった。特に、従業員の少ない企業ほど策定が進んでおらず、策定している割合は従業員数「5人以下」と「1,000人超」では10倍以上の開きがある。

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BCP を策定していない理由として「策定に必要なスキル・ノウハウがない」や「策定する人材を確保できない」「策定する時間を確保できない」など、策定したくともノウハウや人材がいないと回答する企業も多くみられた。

一方、BCPを策定している企業が効果として挙げている点は、「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」や「事業の優先順位が明確になった」のほか、「取引先からの信頼が高まった」、「業務の改善・効率化につながった」が上位を占めている。

5 支援側の動き

中小企業を中心にBCP の取り組みが進んでない状況のなか、支援動向はどのようになっているのだろうか。

中小企業庁は企業向けにサイト上でBCP 様式類(記入シート)やアウトプットイメージを用意している(図表4)。利用者は所定のテンプレートにそって記入することでBCP に必要な要素を盛り込むことが可能であり、専門的なノウハウがなくてもBCP を作成することができる。

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具体的な内容としては、基本方針にはじまり、BCPの策定・運用体制、中核事業に係る情報や事業継続に係る各種資源の代替の情報などを記載するようになっている。また、避難計画シート、主要組織の連絡先や従業員連絡先リスト、主要顧客情報といった内容も盛り込まれている。

これらのツールを活用することで必要な情報を洩れなく計画に落とし込むことができるので、これから計画を立案しようと考えている企業にとって利用価値があるといえる。

また、主要顧客情報などの情報は、通常サーバやPC などの電子機器上に保存されることが多いが、水害や停電の長期化等によりこれらの電子機器類が使えなくなることを考慮し、紙媒体で保管するなどの対策も必要となる。

東京海上日動リスクコンサルティング株式会社主幹研究員の指田朝久氏は「「どの製品を・どのお客さまに・いつまでに納めるか」、「どこに連絡するか」、メモ書きでも構わないので最低限これだけを社内で共有すること」と指摘する。

企業にとってはBCP 策定というと専門的なスキル・ノウハウが必要と考えてしまい、ハードルが高いように感じてしまうが、計画書の体裁にこだわることなく、まずは事業を継続させるために必要な情報を書き出し、社内で共有するということから始めてみてはいかがだろうか。

6 リスクに強い企業体質へ

特定非営利活動法人 事業継続推進機構理事・事務局長の細坪信二氏は「災害のための事業継続ではなく、儲け続ける力を付けることが事業継続につながる」と語る(9頁参照)。

災害対策としてBCP を作成すること自体を目的とするのではなく、企業の収益の源泉となる強みがどこにあるのかを見極めることが、事業の継続につながるといえそうだ。

「BCP とは、自社が生き残るための経営戦略であり、お客さまに対して製品の供給責任を果たすための代替戦略」(前出の指田氏)との指摘にあるように自社のコア業務を見つめ直し、事業の優先順位や代替手段についての対策を立案することは企業の経営戦略そのものといえるだろう。また、製品の供給責任を果たすことはその企業が社会から必要とされていることの証左でもある。

以降の記事では、リスクマネジメントの支援機関・支援企業やリスクマネジメントに取り組んでいる企業の取材をもとに、BCP策定を進めていく上でのポイントを紹介している。また、BCPに関するアンケートの分析結果も掲載しているので、ご活用いただければ幸いである。

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